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BEIビジネス倫理研究所 代表
山口謙吉 先生

プロフィール

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番外編(04)訪問介護大手「コムスン」事件を考える ―従業員より経営者の「志」と「品格」の問題―

■事件の背景にある福祉業務就労環境の未整備
 2007年6月6日、厚生労働省は、訪問介護事業のパイオニアで介護サービス業界最大手のコムスンにおいて不正行為があったとして、今後、同社の介護事業所の更新を認めないと発表した。発端となったのは、3月下旬の世田谷区の同社施設ヘルパー人員の虚偽申請に対する東京都からの事業所指定取消処分を逃れる行為だ。取り消し処分実施前日に同施設を廃止したいわゆる「処分逃れ」である。

 事件発生の背景には、介護保険制度を悪用した不正請求の増加や指定取り消し事業者の多発などにより、同制度が指定更新制に改正(2006年4月)されたことがある。また、業界の人材不足を招いているともいわれ、劣悪との指摘が多い労働環境、社会環境が未整備であることなどが考えられる。

■「志を欠いた経営」の悪しき三つのポイント 
 厚生労働省からの発表後に、コムスンに向けられたマスコミや自治体などからの批判の言葉は、福祉事業者だけに国民に対する裏切り行為と映ったのか、「介護を食い物に、グレーな成長、法制度の不備を突いた不正、法軽視、脱法行為、隠ぺい、手抜き仕事、福祉事業から撤退すべき、君臨・・・…」など、一般企業の不祥事発覚より厳しいものが多いようだ。コムスンはなぜ悪いかの第一のポイントがこのことで、虚偽の申請をしてまで事業を拡大し、また、各事業所には厳しい営業ノルマを設定させていたようで、福祉という分野ではあってはならない不信感を国民に与えたことにある。

 また、高齢者介護の社会的要請は高まる一方であるにもかかわらず、社会福祉事業に携わる人々の環境は必ずしも良くなっていない。それが人材不足などの原因ともなっている背景を知りながら、コムスンは業界最大手として、社会的問題解決の観点から福祉事業に従事する人々の労働環境や社会環境などの改善への努力を十分にしてこなかった。これが第二のポイントだ。ここには、業界のリーダーとしてあるべき経営者の姿はみられない。福祉事業を成長事業だからと同社を買収し、福祉事業を手掛けて「介護を食い物」にしたといわれても致し方ないかもしれない。

 残念だが、いつの時代でも法制度の不備やその隙間をついて法には触れない程度に乱用する人間がいるものだ。しかし、それなりの責任の取り方はしてきているのではないだろうか。コムスン経営陣は、利用者へ迷惑がかからないようにとグループ内企業に事業を譲渡し、事業を継続すると発表した。この唐突な発表は、記者会見の席で凍結するとして納めたが、第三の悪い点はこの“我が身のことを優先している”ようなところだ。国民の大半は、同社の処分や次々に出てくる社内体質を見て、真に反省し、改めるというあるべき姿を殆ど感じることができなかったのではないだろうか。

■改めて問われる「経営者の姿勢」と「経営の質」
 今年もさまざまな不祥事が発生しているが、他の不祥事から学ぶことは多いと経営者からはよく聞く。自分の所でも注意をしていきたいと。しかし表沙汰にならないだけで、多くの企業内で大なり小なり発生している可能性があり、発生していなくても発生の可能性は否定できるものではないのが不正、不祥事というものだ。ここに組織全体で企業倫理を実践している意味があることをわかって欲しい。経営者のごう慢から出た不祥事で最後につけを払うのはいつでも、顧客、従業員、投資者なのだ。

 コムスンの経営者には、事業展開のニーズを読む力はあっても、今の社会がどのようなことを求めているかを読み取ることはできなかったようだ。お金に目がくらんでいたのかどうかはわからないが、とにかく、内外に企業倫理・コンプライアンス実施を宣言し、社会との約束からくる「自制心」などが欠けていたことは事実で、内部統制報告制度も形骸化し、何の機能も果たしていなかったということだろうか。

 また、不適切行為を現場の担当者が申し出ることで、会社として不正行為の温床をなくしていくというシステム(ヘルプラインなど)も形骸化していたのか、従業員を軽視しているような施策が招いたともいえる今回の事件、実は例証が多すぎて一般企業の経営者には参考にならないのではと思えなくもない。

 訪問介護の仕事は本当にたいへんだ。知り合いにもがんばっている人がいるが、神経も使うが肉体労働を伴う重労働で、腰痛などは慢性的になっているという。現場で介護を真剣に行う人たちのことを考えると、何ともやるせなくなってくる事件だ。経営者は、猛反省と従業員が立ちいくように対処することを願って止まない。