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日野孝次朗 先生

プロフィール

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著作権を考える前に

 いつでもそうですが、「どうしたらいいですか?」「違法ですか?合法ですか?」

 著作権の質問と言えば、たいていはこんな内容です。さて、その著作権というものを語る前に、いつも思うことなのですが、著作権以前の問題として「法」というものをどう考えるのか、という点を持ち出さなければなりません。その理由について少し説明してみましょう。

 私はことあるごとにアンケートをとります。たとえばこんなアンケート。「法律違反をする人は悪い人だと思いますか?」
 こう聞くと大半のひとは「YES」となります。それはそうですね。
 では皆さんは果たして法律違反をいっさいしないで日常を過ごしているのでしょうか。
 家庭の中ならまだよいのですが、これが日々のビジネスの現場となるとどうでしょう。
 次にあげるのは、ある会社のオフィスでの一幕。

課長 「ちょっとすまんが、このライバル会社A社のホームページの、この部分を印刷しておいてくれ。今日の会議で配るから10部頼むね。」
部下 「ちょっと待ってください。会議で配るのなら許諾が必要ですよ」
課長 「許諾って、誰からの?」
部下 「このサイトの著作物を作ったA社ですよ。立派な著作物ですから。」
課長 「だけど、これを印刷して売るわけじゃなし。会議で配って、それっきりだから大丈夫さ。」
部下 「でも著作権侵害です。これは犯罪ですよ。私に犯罪の手伝いをしろと言うのですか?」
課長 「!?」

 さて、これをどう考えますか。 著作権法では他人の著作物を複製することは許諾無しにはできないと書いてあって、例外として私的使用(著30条)とか引用などといった一定の方法による複製なら許諾がなくてもよいということになっています。

 会社の会議で配布する目的での複製は、著作権法を読む限りでは著作権者からの許諾が必要になります。では現実に企業がインターネットの情報の印刷の際にいちいち許諾をとっているかと言えば、多分そうではないでしょうね。複写権センターなどで権利処理できない著作物の方が大半ですし、ネット上の情報を利用する際にいちいち許諾を取れなどと期待するのは、社内の内部的な利用であればなおさらのこと難しいと予想します。社外の人にはうかがい知れないこととは言え、私的使用ではないのですから権利侵害だと言われれば否定できません。

 著作権のやっかいなところは、この権利侵害という行為が日常の中でついうっかり、または悪気も無く行われてしまいやすく、それがすわなち犯罪(親告罪とは言え)になってしまうという点にあります。
 たとえば皆さんが友人との約束を破ってしまったり、ちょっとランチで借りた1.000円を翌日返す約束を忘れてしまったりといったことがあったとして、そういった行為はもちろん人としてよろしく無い行為なのですが、だからといって犯罪にはならないのですね。
 
 これはトラブルの当事者だけの問題として解決される筋合いの問題で、ときに民事裁判による解決もあるでしょうが、警察が動くということにはなりません。いわゆる民事不介入というものです。
 ところが他人の著作物をつい許諾を取らないで印刷したら、これは権利侵害であって、すなわち犯罪であるということになります。これは泥棒と同列の扱いです。他人の所有権を侵害したから窃盗罪になるということです。
 窃盗というと、とっても悪いことと理解されていますが、ネット情報を印刷して会議で配ることが「窃盗と同じくらい悪いこと」というふうに認識されているかと言えば、かなりあやしいですね。

 それでも法律は法律だから、今日から一切の印刷に際して著作権法を守ろうと言う考えが正しいのか、それとも各社各部署で判断して、たとえ法律違反であっても一定の場合には印刷してしまうのか。こういった話が「法に対する考え方」として真剣に検討されるのではなく、「本音と建前を使い分ける」という発想に向いてしまうのが日本社会一般の特徴なのかもしれません。

 さて、先ほどのケースですが、その後課長は部下に対してどのような態度に出たでしょうか。

 これは違法ではないと主張するのか、違法でも構わないと主張するのか、他の部下に命令するのか。想像にお任せしますが、こういうことになったら上司としてはそれなりの判断をしなくてはなりませんね。

 これはいちいち専門家に聞いて解決できる性質のことでもありません。私としては法律違反をしてもよいとは思わないし、かといって法律を全て守りながらビジネスができるほど現実が甘くないことも承知しています。

 法律をどのように守るのか、言い換えれば、法律をどのように無視するのかということは、実は経営判断でもあり、人の生き方の問題でもあろうと思います。それを法律の専門家に聞いても意味がありませんね。自分で考えてくださいということになります。

 そういうことをよく考え、どの道をとるかを決めた上で著作権のことを語らないと、現実には意味がないのだということは、わかっていただけたでしょうか。